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「ラス・メニーナス」は可愛らしい王女を囲んで女官たち(そのうちの一人は平べったい顔をし
た、老け顔の足の短い女)や犬や、天井まで届くような巨大な画架の前に立ち、絵筆とパレット を持ったベラスケスがこっちを見ている絵である。みんなが親しみと畏怖の眼差しで何を見て いるのかのかわからなかったが、よく見ると正面奥の鏡に一人の人物が映っている。この人こ そベラスケスのパトロン貴族で、見られている人物なのである。
ゴヤの「裸のマヤ」は素晴らしかった。女性の裸を正面から描いたこの絵は当時としてはあま
りにも衝撃的すぎて裁判により封印され、再び世間の日の目を見たのは、ゴヤが死んでから
73年後だったという。この2枚の絵は表情や頭髪の変化から情事の前後が読み取れるそう
で、着衣が事前、裸体が事後だそうだ。
その後、国立ソフィア王妃芸術センターに行った。ここにはあまりにも有名なピカソの「ゲルニ
カ」が飾ってある所である。ゲルニカはスペインの古都で、空爆で1500人以上の死者を出し て壊滅したというニュースを聞いたピカソが、たった50日で縦3.5m、横約8mの大きなキャ ンバスに、モノトーンで戦争の不条理と正義の尊さを描き上げた作品である。ものすごい迫力 は感じたが、感動はしなかった。
その後、バスで約1時間かけてトレドに行った。地形を見て、城塞都市であることが一目でわ
かった。写真の右側にある尖塔がカテドラルで、この写真には写っていないが、城はそのちょ っと右側である。城は3方が広い川に囲まれた崖で、北側だけが高い城壁に囲まれていた。城 やカテドラルは、丘陵の頂点に建っていた。
ここも8世紀から約300年間回教国として栄えたが、13世紀が終わる頃はキリスト教徒に奪
回されてしまう。当時、トレドには回教徒とキリスト教徒が住んでいたが、信仰と生存権は保障 されて対立も憎悪もなく、トレドは回教とユダヤ教とキリスト教の重層文化になっていたのであ る。16世紀、トレドはヨーロッパの政治の中心となったが、首都をマドリッドに移してからは
400年ほど眠ってしまったのである。
トレドは、横1000m、縦600mほどの狭い土地に、数え切れないほどの古い教会や修道院
や民家がぎっしり建っていて、まるで16世紀の町に足を踏み入れたみたいだった。町全体が 歴史保存地区になっていて、新しいビルを建てることは禁止されているそうだ。古い高級スコッ チを飲んだ時のような、カビ臭いような芳香が、どこからか漂ってくるようだった。ミハスでもコ ルドバでもそうだったが、道は曲がりくねって狭く、迷路のようになっていた。機会があれば2〜 3日滞在して、じっくり見回りたい街である。 ![]() |